SESSION STORY Vol.2

自分のつくった野菜を、魅力を、もっと届けたい

ものづくりに憧れて、新卒で入った会社を一念発起で退職。私が地元で農家に転向したのは5年前のことである。未だに試行錯誤の毎日ではあるが、周辺農家の先輩に助けてもらいながら、ほぼ自分一人で畑の管理をしている。故に、大量の野菜を作ることはできないのだが、スーパーには並ばないような珍しい種類の野菜を多く作ることで、直売所にお越しいただいたお客様に喜んでいただいている。私にとっても、次はどのような野菜を育てようかと、やりがいにつながっている。

なるべく無農薬、かつ持続的な農業を営むことが、私のこだわりだ。都心の酵素風呂屋と縁あって提携しているのだが、酵素風呂で使い終わったおがくずをもらい、畑に撒くこともそのひとつ。元々は栄養が乏しかった畑の土は、おがくずの微生物に分解され、野菜の甘さを引き出してくれる。

私の野菜は、直売所の他にこの酵素風呂屋でも、軒下のスペースを借りて月に一度販売している。地価が高く、周辺に手頃なスーパーもなく困っている富裕層の居住者から支持いただいている。私としても、自分の野菜のおいしさや栄養の高さを理解してくれる方に買っていただきたいのでありがたい限りだ。

だからこそ、酵素風呂屋での販売はできるだけ続けたいのだがネックもある。朝採れからパッキング後片道2時間の運転、休憩なしの6時間接客、さらには渋滞に巻き込まれながらの帰路についてからの片付けなど、体力に自信のある私でも疲労困憊だ。ガソリン代だってバカにならない。

どうしたものかと布団の中、寝ぼけ眼でネットを覗いたのが、“SOCIAL JAM SESSION”の彼との出逢いだった。

DAY 1

まずはメールでのやりとりだったが、彼がたまたま酵素風呂屋へ電車で赴けるとのことで、実際の販売シーンにも立ち会っただけでなく、私の野菜を購入し、満面の笑みで美味しさの感動を伝えてくれた。しっかりと現場に足を運び、私の考えや思いを理解してくれたことに、親近感と安心感を覚えた。

彼から、「理解できていることもあるのですが」と前置きされたうえで、酵素風呂屋での接客意義について明文化したいと問われた。確かに、ECサイトでも野菜を直接届けられる世の中で、必ずしも接客という労力をかける必要はないのかもしれない。だが、自分の口に入るものへの意識が高く、だからこそ自分の野菜を求めてくれるお客様に、そのこだわりを直接伝え、リアクションをもらえることは率直に嬉しい。市場では珍しい野菜が多いので、「この野菜をどう調理すればいいのか」という問い合わせも多く、メニューを考えて提案することも、自分の農家としてのレベルを上げることに寄与していると感じるのだ。そこで、従業員を雇うことなく、お客様との直接的なコミュニケーションは残しながら自分でできるサービスを増やすことを、彼との目標に定めた。

DAY 2

セッション2回目。彼と目標実現のためのアイデアについてざっくばらんに議論した。その中で、彼が実際に来店したときの感想を述べてくれた。スーパーでも「○○さんが作った野菜」というように、生産者の顔が見える売り方がされているものの、「どのように作られた野菜か」は文章や写真でしかわからないことも多く、こと私の育てている野菜は、「そもそもどのように芽が出て成長するのか」知らない人も多いのではないか、ということだった。確かに、私にとっては日常となり、新鮮さも薄らいだ農作業や野菜の育成は、多くの人にとっては驚きそのものかもしれない。

さらに彼は、お客様の動線についても観察していたようだ。たとえば、酵素風呂屋の利用を目的として、ついでに野菜を購入するお客様は、1時間ごとの予約や入浴入れ替えのタイミングも多い。常連のお客様も別途いらっしゃるが、接客する時間をある程度コントロールできるのではないか、という示唆を受けた。

彼からの話を受けて、ふと気づいた。朝採れでなくても必ずしも問題ない野菜もある。それらの収穫や栽培の状況、場合によっては野菜の調理をライブでお客様に配信し、接客や問い合わせをオンラインで対応できるようになれば、酵素風呂屋現地でなくとも、かつ月1回という制限をなくして商売ができるのではないか。オンラインで接客を続けていれば、実際に私の畑に赴いての収穫や、採れたての野菜を食べたいというお客様の出現が想定され、観光農園への誘導もできるのではないか。彼は深く頷いてくれた。

DAY 3

セッション3回目では、彼に私のアイデアを実現するための手段を描いてもらった。たとえば、畑の状況を中継し、遠隔でリアルタイムなコミュニケーションをとるためのデジタル機器が、畑と酵素風呂屋それぞれに必要だ。また、酵素風呂屋に、お客様への簡単な説明や私への接続を依頼し、そのコストと交渉を見込まなければいけない、と整理した。彼は、ただ単に「いいですね」と肯定するのではなく、実現へのアクションプランや想定費用、リスクまで示してくれる。実際に行動に移すかは私次第だ。今回のアイデアがすぐ上手くいくとも限らない。だが、行動の先の振り返りや修正こそ大事なのだ、そのときにいつでも頼ってほしい、と彼は力説した。ある意味、試されている気分にもなる。が、強く背中を押されたのだと理解している。

やってやろうじゃないか。また彼と会うときに驚かせてやろう。気持ちが充実するのを感じながら、私は一歩踏み出したのだった。

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