SESSION STORY Vol.3

このまちのために、私たちができること

私は、首都圏ベッドタウンエリアであるK市に位置する、駅近の地場不動産仲介会社を経営している。新卒では勉強のために大手仲介企業に就職したが、当時から親の代よりの事業承継を前提としており、先月社長に就任したばかりである。事業としては担当エリアのテナント賃貸管理を行なっており、主に飲食店との契約が多いが、1年以内での撤退も多く長続きしないことに課題意識を持っている。

これは業界全体の課題感であり、テナントの空き期間をできるだけ短く、契約する店は希望があればすぐ入ってもらいたいと地元の仲介各社が願っているが、結果として駅前のテナントは似たような大手チェーン店ばかりが並ぶ光景が目につくようになった。仕方がないと諦めつつも、地元として長らくこのまちの変化を見届けてきた私にとって、まちの個性が失われていることに危機感を覚えている。地元の組合や青年会議所でも、駅前にどのような店が入るかなど意見交換をしているが、最近はマンションが新しくできたおかげで、子育て世代の家族層が増えており、ニーズマッチしたお店が増えることが求められている。

DAY 1

何か新しい手立てが必要だとは理解しつつも、不動産仲介しか経験のない私や社員ではケイパビリティが足りない。そこで支援を依頼したのが“SOCIAL JAM SESSION”だった。様々な企業規模や目的の新規事業開発に経験があるということで、我々に合った企画を一緒に考えてもらう期待をした。彼はまず私に「このまちをどうしたいのか」、その思いを尋ねてきた。「まちづくり」はそのまちに住んでいる人とお店で作るものだ、私はそう考えている。いくらマンションが増えて活気が増えたように見えても、ニーズマッチしたお店が増えなければ居住者は離れてしまう。だが同時に、特に飲食店などの事業継続が難しいという現実的な課題もあり、個人経営で「まちづくり」に思いのもった人が開業してくれることが望ましいが、短期での撤退が続くと敬遠され、後が続かないリスクが辛いところである。彼は私の思いや悩みまで受け止めてくれた。

DAY 2

そのうえで迎えたセッション2回目。彼は、私に想定する企画の事業規模を確認した。私は、契約数、もとい売上が継続的に増えるための予算であれば組めるが、一時期でも赤字を出すような事業は難しいことを素直に伝えた。「思いや理想だけでは、どんなに価値ある事業も継続できず、結局社会を変えられない」と彼も頷く。解決すべき事業課題のひとつは「空きテナントの期間を短くする」ことであり、シンプルに言えば、次に入るテナントがすぐ決まる、あるいは空きテナント時のコストを下げることである、という観点を彼とともに整理した。

整理の過程で、前者であれば、独立開業したい人を募り、試験的にお店を出せるような仕組みに取り組んでいる自治体や商店街があることを、ニュースで見たことがあることを思い出した。また後者であれば、居住者から直接的に「どのようなお店がテナントとして入って欲しいか」情報を集め、テナントが空いているときは少額ずつでもクラウドファンディングのように出資してもらい、マッチする開業希望者を呼び込めれば、開業希望者にとっても経営準備がしやすくなるのではないかとアイデーションした。

「どちらも試す価値がありますね。あなたは、どちらから挑戦してみたいですか?」
彼は私にそう質問した。深く唸りながら一考する。「まちづくり」への自分の思いを振り返れば、実現方法は正直浮かばないのだが、後者を検討してみたい。経営者として、数字だけでなく理念を追求したい。その言葉を自らの口で説明したとき、どこか晴れ晴れとした感情を得た。彼は笑顔で承諾した。

DAY 3

セッション3回目では、アイデアの実現にフォーカスを充てて議論した。我々で早急に対応できることとして、空きテナントの入居ニーズを確認し反映するには、テナント物件オーナーへの交渉や相談が必要だと整理した。また、出資する地元住民を募る方法も考えなければならない。まずはこの企画が成立するかどうか確かめるため、協力してもらえるオーナーを募ることから動くことを決定した。さらに、既にテナントが入っている複数オーナー向けに、今後その物件が空くリスクへの準備も含めて、今回の企画や出資を募るチラシを、テナントに置いていただけないか交渉することとした。

地元住民から出資を募る仕組みとして、彼から、クラウドファンディングは都度フレキシブルに行うには不向きであることと、その代替としてブロックチェーンという仕組みが存在するという共有を受けた。ただし、ブロックチェーンをシステムとしてこの企画に導入するにはコストが高いため、ブロックチェーンの考え方をアナログとして盛り込めないかという提案であった。彼はその仕組みを図示し、我々にもわかりやすい座組のイメージを描いてくれた。

「新規事業は失敗の繰り返しと修正が前提です。コストをかけないためにはスピードが勝負です。この資料は是非たたきとして使ってください」

彼の言葉を受けて、組合や青年会議所の仲間にも、彼が作ってくれた資料をもって相談してみることにした。もしかしたら、新しいアイデアや実現案が生まれるかもしれない。

彼との「イントロセッション」はここまでだが、もう一度「イントロ」を依頼することもできれば、「メロディセッション」として共創の業務委託契約も可能とのこと。できれば彼とエンディングまで「共奏」していきたい。

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